2009-11

図書館で本を借りた。

 図書館で本を借りた。飛鳥童(あすかわらべ)作「フーテンすってんてん」。アリス館という出版社の、「図書館文庫」という子供向けシリーズのうちの1冊。
 内容はというと、アメリカへ渡って仕事をするはずだったのが急にキャンセルになってしまった。そこで、全財産をはたいてボロ車を買い、家財道具一式詰め込んで、行き先も定めず東京を出発、その車に寝泊まりして、80日かけて日本一周した旅行記である。

 実はこの本をずっと読みたいと思っていた。正確に言うと読み直し。というのは、この本は、私が小学校5年か6年の時、満足に読書感想文を書けて、先生にも誉められた唯一の本なのである。
 そのほかの年の読書感想文はみな、あらすじにちょこっと感想を添えて、「宿題提出の義務は果たしました」という程度のものだったが、この本はどんどん読めたし、感想もどんどん書けた。

 その本を市の図書館の蔵書検索で発見し、直ちに利用登録をして、別の館にあるのを取り寄せてもらった。

20071019futen.jpg

 たしかにこんな赤い本だったように思う。目次を見る。「波音まくらに第一夜」に始まり、「三沢基地侵入に成功」「出かせぎ地帯で思ったこと」「肥桶とナスとキュウリの人情」「焼酎に責められた熊本の夜」…これは本当に児童書なのか?

 読んでみると、字は小さく、漢字にふりがなが多少多いかと思うぐらいで、内容的にはすっかりおとなの本だった。
 とりあえずの全財産を持って出てきたもののすっかり使い果たしてしまい、札幌の大通公園で寝泊まりしながら、飛び込みでアルバイトをさせてもらって急場をしのいだり、雪に閉ざされる農閑期にはどこの家でも父親は出稼ぎをしなければ生きていけない、山形の山間部の分校を訪ねて、社会の矛盾を噛みしめてみたりした。
 北陸では家出してきたという女の子を諭して家へ帰らせた。やがて、熊本にあるその女の子の家を訪ねて行くと「待ってました」とばかりに夜中じゅう焼酎の宴会につきあわされたり、三重では無免許の少年が運転するトラックにぶつけられて、元気になるまでその少年の家に厄介になったり。その事故の章では、示談書の写しが1ページ使って載せられている。

 この本について小学生の時の記憶で残っているのは、冒頭に書いたような大雑把なことだけだったが、いま読み返してみるとこの本は、その後中学に入り、また大人になるにつれて得る知識や見識といったものが土台にあってこそ読める内容であるようだ。
 5年生や6年生と言えば、ふつうに小説とか読んだりする子もいる年ごろだと思うが、私はそれほど本の好きな子ではなかった。そんな私が、この本をどんな気持ちで読み、どんなふうに理解したのだろう。それが知りたい(なぜこの本が児童書として世に出たかという点も知りたいが)。実家に行けば、その時の感想文がどこかにあると思うので、いつの日か探し出して読んでみたいと思う。

 私は、このブログでも時々旅行記めいたものを書いているが、思い返してみると、小学生のころなど、夏休みに家族旅行をすると、必ず写真を貼った旅行記を提出していた。今ブログで書いているものも含め、昔から、どこかへ行ってきたのを文章にすると、わりと喜んで読んでくれる人がいた。
 そんな子供だったので、理解できない部分があっても、この本がしっくり心に響いたのだろうし、また、この本に出会ったから、なおさらそういうものを書くのが楽しくなったのではないかと、そんなこともまた思う。 

 二十数年ぶりの、とても嬉しい再会だったが、図書館の本なので、しばらくしたら私の手元から去っていく運命である。どこかの出版社で復刊してくれないだろうか。そうしたら誰より先にすぐに買ってくる。


 ところで、この物語を書いた飛鳥童さんは、そもそもは作家ではなくイラストレーターで(だからこの本の挿絵もご本人の手によるもの)、現在はカナダのトロントにお住まいで活躍中とのこと。こちらのページにインタビューが載っていますので、どうぞ見てみてください。

コメント

Thank you

きちい様

ふとしたきっかけで、10月19日付ブログにお邪魔しました。
拙書「フーテンすってんてん」を小学生時代に読書感想文を書いて下さり、先生に褒められた事など、いやぁ〜、嬉しい内容でした。
写真の赤色表紙は1980年発行の軽装本ですが、初版本は一回り大きいケース入りの上製本で1973年に出版されました。もう34年も前の著書とていずれも絶版になっていますが、私の処女作でもあり、日本で出版した本の中では子供のみでなく大人達からも良い反応が得られ、思い出も多く、懐かしい作品です。

あの本を出版後、日本を飛び出して約3年間冷戦時代の旧ソ連、東欧、西欧諸国を列車に乗り継ぎ、てんてんとフーテンの旅を続け、何とかロンドンのギャラリーで道場破りに成功し、イラストレーターからアーチィストへ転向する契機になりました。その後1979年よりカナダ東部のトロントに落ち着き創作活動を続けています。今も尚取材を兼ねてアフリカや北極圏にも旅をしています。私の遠い先祖はジプシーだったのかもしれませんね。

ご活躍を!一言お礼のみにて。

晩秋のトロントより  飛鳥 童



ありがとうございます。

飛鳥童様

このたびは私のブログをご覧下さり、さらに温かいコメントをお寄せ下さいまして、ありがとうございます。
まさかお書きになった飛鳥さんご本人からコメントをいただけるなんて思ってもみなかったことで、本当に感激しております。

「フーテンすってんてん」につきましては、この記事を書いた後、「復刊ドットコム」(http://www.fukkan.com/)という、復刊リクエスを受付け、本の復刊に向けての活動をしていくというサイトにおいて、私も投票させていただきました。

飛鳥さんには、別途メールにてお礼を申し上げることといたしまして、この場では、簡単にお礼を述べさせていただこうと思います。

本当にありがとうございました。大した内容のあるブログではありませんが、また覗いていただければ幸いです。

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Author:きちい
すみか:埼玉県。川口みたいで、浦和みたいで、越谷みたいで、岩槻みたいなあの辺。
好きなこと:ぷらっとそのへんへ出かけること。もちろん遠くへ出かけることも好き。おいしいものを作ることも好き。
なりわい:細々と韓国語の翻訳をやってます。詳しくはこちら

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